桐箪笥

北鎌倉の住宅。

お施主様には、

新居で使う家具・調度品・カーテンなども誂えてほしいとご相談をいただいていました。

新しいもので揃えることもできましたが、

ちょうど、ご実家のご売却のお話が出ていると伺い、

お邪魔させていただくことにしました。

部屋の奥で静かに佇んでいた桐の箪笥。

お婆様の嫁入り道具だそうです。

年代物の立派な総桐箪笥でしたので、

今のお住まいに合うように、

焼き直して濃色に仕上げてはどうかとご提案をさせていただきました。

三段の整理箪笥は、棒通して連結されていますが、分割可能な構造。

防虫、防湿、通気性を活かして、

衣装箪笥として使うこともできますが、

花を飾ったりして、格の高い調度品として暮らしに取り入れるのも素敵です。

使い勝手を考慮して、台輪を付け直し、

上二段と最下段に分けてお直しをお願いすることにしました。

金物は、磨き直して再利用します。

繊細なお花の装飾がさり気なく、お婆様のセンスが感じられます。

最近は、爪が引っかかるといった理由から敬遠されることも多いそうですが、

この意匠は残したいと思いました。

各段の鍵も、当時のままに。

桐箪笥の中には、

百年単位での修理を想定して作られているものがあるといいますが、

この箪笥も、数度の再生に耐える工夫が見られました。

修理・再生は、

埼玉県春日部市にある山田桐箪笥店さんにお願いしました。

江戸時代から続く桐箪笥の専門店で、

この日は、八代目のご主人と奥様が鎌倉まで引き取りに来てくださいました。

ダニや染みを焼き出し、

いくつものも工程を経て再生されるとのこと。

代々受け継がれてきた技によって、箪笥は再び息を吹き返すことになります。

お婆様からお母様、そしてお施主さまへ受け継がれる箪笥。

三代を繋ぐ家具として、

旧家での記憶をそっと呼び起こすような特別な存在になることを願っています。